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飲食店火災の原因から対応方法まで、押さえておきたいポイントを解説

日常的に「火」を取り扱う飲食店で考えられるリスクの1つが、火災です。ニュースになることも多く、飲食業に携わる企業にとっては、決して他人事ではありません。飲食店火災にはどのような原因が多く、どのような予防方法が考えられるのか。また、火災になってしまった場合は、どのような対応策を取ればよいのか。飲食店経営者が押さえておきたいポイントをお伝えします。

飲食店火災の件数

消防庁の「令和2年版消防白書」によると、令和元年は全国では531件の飲食店火災が発生しました。なかでも多くの飲食店が集中する東京消防庁の管内では368件と、全国の7割近くを占めています。同庁管内の件数は毎年300件以上で推移してきましたが、令和2年は244件にとどまりました。これは新型コロナウイルス感染症により、営業を休止する飲食店が相次いだためと考えられます。

244件を業態別に見ると、以下のような結果になりました。

  • 酒場・ビヤホール:72件
  • その他の食堂・レストラン:34件
  • 中華料理店:30件
  • 西洋料理店:24件
  • その他の一般飲食店:84件

時間帯別では酒場・ビヤホールが21〜23時台、中華料理店や西洋料理店では18〜20時台のもっとも混み合う時間帯繁忙期が最多という結果になりました。

飲食店火災の原因

もっとも多いのは「うっかりミス」

引き続き東京消防庁のデータから、どのような火元が多いのかを見てみましょう。

  • 燃焼器具(大型ガスこんろ、大型ガスレンジなど):128件
  • 電気設備器具(コンセント、電磁調理器など):72件
  • 固体燃料使用器具(炭火七輪こんろ、無塩ロースタなど):17件
  • たばこ、放火、その他の原因:27件

燃焼器具(主にガス厨房機器)がもっとも多く、そのうち出火原因としては火をつけたまま現場を離れたことが69件と圧倒的に多くなっています。つまり、人為的な「うっかりミス」さえなくせば、火災を未然に防げる可能性が高まるのです。

次いで多い電気設備器具については、調理器だけでなくコンセントや差し込みプラグといった周辺機器からの出火も目立っています。例えば、プラグの差し込みが不十分であったり、接続部にほこりが溜まったままにしたりするのは危険です。電気設備は火を使わないからといって、決して安心ではないのです。

→ 電気設備の火災については、こちらの記事で詳しく解説しています。『電気火災とは?その原因や種類から予防のポイントまでを解説 』

飲食店火災の事例

では、どのような状況で火災が発生したのか、4つの事例を紹介しましょう。

  • 天ぷら油を加熱したまま外出
    店長が天ぷら油を凝固剤で固めるため、大型ガスこんろで加熱していることを忘れて外出した間に出火。
     
  • 大型ガスこんろ近くに置いた天ぷら油が過熱
    中華鍋の天ぷら油が、近くにあった大型ガスこんろから伸びてきた炎の熱によって温度が上がり出火。
     
  • 調理用ラードを加熱したまま放置
    店長が大型ガスこんろで調理用ラードを一斗缶に入ったまま加熱し、リモート会議のため離れた間に出火。
     
  • 焼肉店のダクトの油かすから出火
    利用客が肉を焼いていたところ、火のついた油が無煙ガスロースタに吸い込まれ、ダクト内にたまっていた油カスに着火。

いずれの火災も、こんろに火をつけたままその場を離れたり、火元の近くに油を置いたりするなど、ちょっとした油断が原因です。東京消防庁は、こうしたヒューマンエラーをなくすためのポイントをまとめた「飲食店の厨房設備等に係る火災予防対策 ガイドライン」を公表しています。

火災の予防方法

予防方法1:3つのポイントを徹底

上記のガイドラインでは、火災予防に欠かせない3つのポイントを挙げています。

  1. アルバイトを含む従業員の防火意識を向上させる
    日頃から注意をうながすため、出火・延焼の原因から火災時の行動等を簡単にまとめた「防火意識向上シート」を、厨房室の見やすい場所に掲示しておく。
     
  2. 排気ダクトを定期的に点検する
    店舗の実態に応じた点検表を作成し、点検を実施。天蓋やグリス除去装置など外観から確認できる部分の点検は日常的に行う。
     
  3. 排気ダクトを定期的に清掃する
    2.の点検結果にもとづいて清掃要項を作成し、定期的な清掃を行う。

予防方法2:最新型の厨房器具に入れ替える

現在使っている厨房器具を新しいタイプに入れ替えることも、火災の予防につながります。例えば、最新型の業務用ガス厨房器具は機器から出る輻射熱(ふくしゃねつ)を抑える設計などにより、厨房内の気温や湿度を快適に保ちます。

これまで火を使う厨房は「蒸し暑くて大変」というのが一般的でしたが、器具を入れ替えることで大幅な改善を期待できます。働く環境が快適になれば従業員の集中力や注意力が向上し、火災を防げる可能性も高まるでしょう。

最新型の器具は、一酸化炭素中毒の原因となる立ち消えや不完全燃焼を防ぐ機能を備え、安全性も向上しています。器具の入れ替えには初期投資がかかりますが、取り組む価値は十分にあるといえるでしょう。

火災が起きてしまったら

初動から鎮火後まで

いくら予防を徹底しても、100%火災を防げるとは限りません。万が一、火が出てしまった場合の対応策も、あらかじめ決めておくことが大切です。一例として、中小企業庁の「中小企業BCP策定運用方針」が挙げている5つのポイントを紹介しましょう。

  1. 火災を見つけたら「発見」「初期消火」「通報」をワンセットで行う
  2. 「消防への通報」と「周辺住民への通報」は役割を分担して行う
  3. 従業員の安全を考え、状況によっては初期消火を中止して避難を優先する
  4. 延焼の危険性を考えて、周辺住民への通報は必ず行う
  5. 鎮火後は消防の検分を受け、間違いなく鎮火したことを確認する

BCP(事業継続計画)とは、想定されるリスクに対して対策を行い、早期復旧につなげる計画のことです。企業や自治体が地震や台風への防災対策として行うものですが、そのエッセンスは飲食店の火災対策にも十分に取り入れられます。

→ BCPの詳細については、こちらの記事で詳しく解説しています。『BCPとは?具体的な策定手順と策定時のポイントを解説』

→ 火災への対応方法については、こちらの記事で解説しています。『工場火災の原因から対策方法から、起きてしまったあとの復旧方法までを解説』

保険への加入と災害復旧専門会社の活用

火災で避けられない経済的な損失に備えて、火災保険に加入しておくことも大切です。建物や器具の補償はもちろん、営業が中断している間の運転資金や人件費の支払いも考慮に入れて検討するとよいでしょう。

保険商品のなかには、復旧専門会社を利用できるタイプもあります。復旧専門会社は被害を受けた器具を修復する専門的な技術を持っており、活用すれば復旧までの時間を大幅に短縮できる可能性が高まります。

保険については、本サイトで別途詳しく解説した記事を公開しています。こちらの記事は水害に関するものですが、一般的に水害は「火災保険」によってカバーされるものです。このため、補償される範囲のように火災についてもご参照いただける情報を掲載しています。『水害に使える保険の種類、補償内容、選ぶ際に気をつけたいポイントを解説』

「一人ひとりが火災を防ぐ」意識の徹底を

中小の飲食店は、日頃の業務が多忙で火災対策になかなか手が回らないかもしれません。しかし、火災を起こしてしまったら、失うものは非常に大きくなります。まずは従業員の教育を通して「一人ひとりが火災を防ぐ」意識を徹底させることが大切です。また、人為的な「うっかりミス」をなくすには、業務オペレーションを全面的に見直す必要もあるかもしれません。これは面倒かもしれませんが、長い目で見れば安全で快適な厨房環境を実現し、持続可能な飲食店経営につながるでしょう。

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